クルトシャッフォー氏は1935年チューリヒ生まれの時計師でありムーブメントをスケルトン加工しエングレーブする職人。画像のクロノマスターは、彼が1980年独立し工房を開いてからから18年後、64歳の時の作品になります。日本で1999〜2000に発売されました。
このモデルが国内発売される以前に二玄社から発売されていた時雑誌インターナショナルリストウオッチ(日本語版)にクルトシャフォー氏が紹介されていました。そこには、美しい作品の写真と気に入ったキャリバーにしか加工を施さない職人気質の人で、クロノグラフでは、ゼニスのエルプリメロcal;410とフレデリックピゲFP1185のみしか加工しないとか書いてあったように記憶しています。世の中には変わった?凄い人がいるものだと気になっていました。その1〜2年後にその時計に携わることが出来るとは全く思っていませんでした。
当時ゼニスの国内輸入元の企画で、「20世紀機械式時計の到達点」というコピーで15本が限定発売されました。(実際には20世紀にちなんで20本を注文したところ、実際には15本の製作が限界だったようです。)ダイヤルから見ると普通の金無垢のクロノマスターなんですが、6時位置にクルトシャッフォーのイニシャルKSが入ってます。このマークは本人が加工した時のみに入れられるもので、のちにゼニスがLVMHグループに参入してからも最初の1〜2年カタログにはクルトシャフォーモデルは存在していましたが、その頃は、本人は監修の立場になり、ダイヤルに”KS”マークの入ったものはなく、その後も作られることはありませんでした。
なんといっても、シースルーバックから見えるスペシャルCal410は圧巻です。堪能するにはルーペが必要で、肉眼では、正確な模様に見えても、実際は有機的な模様を描いており筆記体の文字が模様の中に盛り込まれていたり、パーツで見えない部分までも彫りが施されています。金で作り替えられた地板やパーツにエングレーブを施し、組み立てるという作業です。
ローター部のzenithのロゴは、透かし彫りになっています。この加工はエングレーバーとは別の技術で、クルトシャフォーのご子息が、透かし彫りを得意とする職人でこのローターは彼の仕事です。ゼニスとクルトシャッフォー親子のコラボレーションモデルといえます。
店頭にあるときは、1年に何回かは、ルーペでムーブメントを観察してその度に新たな発見をしていました。名曲のようです。自分も年を重ねるというか経験を積むというか、いろんな時計を見ているうちに、この時計に対する価値観が変わってきたように思えます。
この時計をご購入された方も、何年も前からお店に足を運ばれていただいてますが、最初の頃は気にもしなかったようですが、少し前から、この時計の魅力に魅せられて、ご購入に至ったようです。現在クルトシャッフォー氏は76歳(2011年現在)、近況のニュースは入ってきませんが、どうされているのでしょうか。
美しい彫刻もさることながら、リューズでの巻き上げのタッチ、透かし彫りのロータの軽やかな回転、販売後も心に残る時計です。