基本的に物質にキズがつくときは、その物質より硬度が高いものが接触したときです。一般的に空気中のゴミのなかで硬度が最も高いものはクォーツ・水晶の粉といわれています。水晶は硬度7です。(時計をお手入れするときにクロス等に目に見えないゴミやホコリがついていてその中に硬度の高い物質の粉が混じっているとケースやプラスチック風防等にキズを付ける場合があります。なので、お手入れクロスは拭く側を内側におってたたむとか、ビニール袋に保管するとかしてホコリがつかないように心がけましょう。
話をサファイアクリスタルに戻して、硬度9のサファイアクリスタルに日常においてスクラッチ・引っ掻きキズがつくことはありません。ただし、接触したものの先端が鋭いとき、それに圧力が加わった時は例外です。サファイアクリスタルにキズがついた事例を何度かみていますが、多くは糸のような細いキズです。
実際に注意すべきは、金属等の堅いものに風防(サファイアクリスタル)のエッジにぶつけた時におきるチップ、いわゆる欠けのほうです。デザイン、作りによって風防のエッジがたっている時計はチップする確率が高くなります。
たとえばロレックスオイスターは立っている方で注意が必要です。にもかかわらず、また防水性の高いという安心感から、またブレス仕様ということもあり日常ガンガンのユーザーが多いこともあいまって、オーバーホールの見積り時にこのチップを指摘されてクリスタル交換オプションがつくことが案外多いんです。チップからクヒビからワレへと進行する可能性があります。メーカー修理としては、修理保証をつけますので、防水性に問題があるという理由で交換必至の見積もりがですます。
チップは肉眼で見えないサイズのもの含みますから、見積もりが出て「クリスタルにカケ?そんなはずはないんですが?」という方も多い。なので店頭ではロレックスのお預かり時はルーペでぐるっとクリスタル円周のチェックは必至だと思っています。発見したらルーペかキズミをお貸しするか、店頭のジェムスコープでその場で確認していただくことにしています。
左:ロレックスオイスター赤い三角部にチップ。 意外と立ち上がっているオイスターのクリスタル。プラ風防だった頃の名残でしょうか?右:ジャガールクルトマスターシリーズ。ベゼル部からガラスの立ち上がりが低くチップしにくいタイプと言える。
左:ノモス AHOI 20気圧防水でありながらケースとサファイアクリスタルの接点はスムーズ。
ノモス AHOIシリーズ
右:ハミルトン カーキフィールドオート 高いコストパフォーマンスはムーブメントだけでなくこういった細部にも見られる。こちらもベゼルからクリスタルの立ち上がりは少ない。
ハミルトンカーキシリーズ
アウトドア使用に特化したスントもカイラッシュ、トラバースアルファといったモデルでサファイアクリスタルが採用されるようになりました。左がカイラッシュ、右がトラバースアルファ、スタイリッシュが売りのカイラッシュでもベゼルと同じ高さ、ミリタリーのトラバースアルファは、一段下げてセットされています。エッチのチップ防止が配慮されたセッテイングです。
スント
高度と強靭性の違い
あるクイズ番組でダイヤモンドを鉄板の上に置きハンマーで思いっきり叩くとどうなるか?という問題があり、実験をやってましたが、答えはこっぱみじん。「硬度」と「強靱性(ねばり)」は別です。高度がダイヤの次のサファイアクリスタルでも条件が重なれば壊れます。
サファイアクリスタルにキズがついたという場合によく見ると表面のコーティングにキズがついたという場合があります。硬度9のサファイアに、どうしてコーティングが必要か…..は、次回。
(2017.7.22 加筆&参考画像追加)